演劇とコントで“テンポ”は変わる?最注目コントユニット「ダウ90000」が“演劇”を観る楽しさを語る
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今回は演劇など舞台方面だけでなく、初出場でありながらM-1グランプリで準々決勝に進出し、ドラマ「エルピス」のスピンオフドラマも手掛けるなど、多方面で活躍中の「ダウ90000」にインタビュー。ダウ90000は男女8人組、大学の演劇サークルを母体として2020年に旗揚げし、全員が20代という若いユニット。コントライブや演劇公演のチケットは即完売するなど、その注目度の高さが伺える。“劇団”とは名乗らず、”芸人”とも自称せずに、演劇・コント・ドラマ・漫才と様々な表現方法で活動しているダウ90000のメンバーに、演劇を観る楽しさ、選び方をラフに語ってもらうべく、まずは最近観た作品や、これまで影響を受けた劇団について聞いてみた。
「お芝居とコント、両方とも続けていくことを大切にしたい」
道上「『MCR』が好きで、スケジュールが合う限りずっと観に行っています。一番好きな作品の『貧乏が顔に出る』では、情けない男たちのことを嫌いになれなくなってしまいました。毎回、おもしろさも散りばめつつしっかりストーリーがあって、心が動かされます」
忽那「一番好きでよく見に行くのは『玉田企画』です。『ゆうめい』とコラボした公演『おたのしみセット』は、玉田真也さんと、ゆうめいの池田亮さんが脚本を書いていて、アドリブも交えた言葉で、その場にいることをすごく楽しんでる感じが伝わってきました。玉田さんらしい独特な演技にクスッと笑えたり、スマートフォンの画面を使った演出もあったりして、新しいものを観た感じがしました」
吉原「舞台中心の子役をやっていた中学生のころ、共演者の出ていた『犬と串』の舞台を観に行ったのがきっかけで小劇場での演劇のおもしろさを知り、SNSで情報を集めたりするようになりました。『ゴジゲン』など早稲田のエンクラ(早稲田大学演劇倶楽部)出身の劇団をよく観ています。ゴジゲン主宰の松居大悟さんは、私が好きだったクリープハイプのMVの監督も務めていらっしゃったので、それもきっかけでした」
飯原「初めて観た演劇は『大人計画』の『七人の恋人』でした。徳島にいたので生で観ることはできなかったんですけど、高校の演劇部の部室に一本だけあったそのDVDを繰り返し見ていました。上京してからは『地蔵中毒』が好きでよく観ています。初めて観た時の内容が、女子十二楽坊の曲をBGMにしておじさんの野球帽を取り替えるっていうやつだったんですけど、それが衝撃的におもしろくて(笑)。強烈なインパクトを受けて、そこから全部観に行ってます」
中島「小さいころからミュージカルが好きだったんですが、自分ではじめてチケットを取った舞台は、高校のころ大好きだったムロツヨシさんの『muro式9.5』。福岡の能楽堂で観ました。歴史のある場所でも、内容はいつもムロさんがやっていることと同じで、能舞台の端から普通にムロさんが歩いてきて、松の絵の前で一人で演じる、みたいな。そういう場所とのちぐはぐ感もまたおもしろかったです」
上原「僕はなかなか演劇を観に行かなくて。仕事をしていて関わった方とか、メンバーに誘われてだんだん行くようになったので、本当に申し訳ないんですけど(笑)今後知っていければと」
園田「僕も、もともと演技することを目指してなかったこともあって、蓮見に誘われて演劇を始めるまでは全然観てなくて。影響を受けたもので言うと、YouTubeで観た芸人さんのコントのほうが大きいかなと思います」
蓮見「僕も劇場に足しげく通うわけではないですが、やっぱり『玉田企画』の作品は、コメディだけどコメディじゃない部分もちゃんと刺さるように作られていて、お笑いを生み出す方程式がコントとまったく違うのに、なぜか笑ってしまいます。『地蔵中毒』は、逆に笑いに全振りしていてすごく特殊な団体だなと思っているんですが、自分たちはその間を取れたら一番バランスいいんだろうな、と思いながら観ています」
自分たちを“劇団”とは定義しないダウ90000だが、コントライブと並行して「本公演」と呼ぶ演劇作品をコンスタントに行っている。さらに近年では「今日、ドイツ村は光らない」(Huluにて配信中)、「8人はテレビを見ない」(ドラマ「エルピス」のスピンオフ、TVerにて配信中)など映像作品での活躍も増えている。演劇とコント、舞台と映像作品では、どんな違いを感じているのか。
蓮見「僕としては演劇とコントの作り方自体はあまり変わらず、尺の違いぐらい。演劇については、最近は『テーマが伝わってこない』とか言われるので、無理矢理テーマに見えるものを入れていますが(笑)、コントのほうが、自分から湧き出たもので書いている感覚はあります。メンバーは芸人ではなく役者なので、肩書きを変えないためにも“本公演”はやるようにしていますし、両方やってることで評価してもらってきたので、今後も続けていきたいですね」
吉原「舞台と映像の違いだと、舞台はなまものだから、その場のお客さんの雰囲気や反応に合わせてお芝居を変えたりすることもあります。逆に映像は、カットがつながらなくなってしまうから、一挙手一投足の再現性も、芝居自体のトーンも合わせます。あと、自分たちの舞台は基本的に劇場でやるので、映像で外のシーンを撮ると『風があるな』と思います(笑)」
中島「最近思うのが、注目を集めるためにちょっと動いたりするのが舞台ならではかなと。注目してほしい時、カメラがあると『この人を見なさい』と演出してくれますが、舞台は席によってお客さんとの距離もあるし、ただセリフを発するだけで急にその人を見てくれることはないので。台詞をお客さんに向けて言ったりとか、体や椅子の向きを変えたりなど、『いまからこの人に注目してね』というのを自然な動作で伝えられるように工夫しています」
園田「演劇は『笑い待ち』、つまり客席で笑い声が起きてる間は台詞を言わない時間というのがあったりして、お客さんの反応ありきな感じがします。ドラマの収録現場は笑い声が返ってこないので」
中島「最初は『笑い待ち』という概念を知らなくて、蓮見さんに言われて『確かに!』と思いました(笑)」
蓮見「最初のころはみんな、お客さんにウケてて笑い声が起きている間に次の台詞を言っちゃって、笑い声が止むころには展開が4つぐらい終わってる、みたいなことも全然あった(笑)。いまはうまくやってくれてるな、と思うことが増えました」
8人という大人数から生まれる絶妙な掛け合いや間が笑いを誘うダウ90000だが、そのタイミングについて意識していることはあるのだろうか。
園田「いまでも、上映中でも日によって蓮見から『今日はちょっとテンポ早めにして』とか『遅めにして』とか言われるんですけど、理屈がわからなくて『なんで?』って思ってます。本番中だから蓮見もわざわざ説明しないし、あとで聞くのもかっこ悪いし」
蓮見「聞いてよ(笑)。お客さんの空気感だったり、昼か夜かでも変わったりするので、そこを読むようにしてます。でもこないだは大変だったね」
上原「新ネタを披露したんですけど『たぶんこの場面でウケるから、ウケるまでやり続けろ』って言われて、その通りやり続けたんですが、全然ウケなかった」
道上「あれはやばかった」
上原「一回『あ、これはウケない』って諦めたんですけど、『諦めるな』って言われたからやっぱり続けて(笑)。結局2回ぐらい多かったかな」
蓮見「6回だよ(笑)。6回多かった」
中島「40秒やってたよ」
吉原「ちょっとしたタイミングの違いでウケ方が変わるのは同じだけど、コントのほうが『0.1秒セリフが早かった』みたいな感覚はよりわかります。逆に演劇は90分あるし、芝居してる時はその役に入ってるので、俯瞰して間の感覚をつかむのが結構難しくて。蓮見さんは作り方が変わらないと言ってたけど、私は演劇とコントで芝居はなんとなく変えてます」
道上「正直、自分の間の取り方については、掴めてると思ったことはないんですけど、ほかの人に対して『今日早いな』『遅いな』というのはだんだんわかるようになってきました。自分のことも掴んで、うまく動けるといいんですが」
飯原「ほかの演劇では、こんなにテンポの違いが作品に影響を与えてるのかと、不思議に思うことがあります。僕らはこれを演劇だと思ってるけど、僕らがやってることと、ほかの演劇ってなんか違うのかも」
吉原「確かに。あんまり速さとか言われないかもね。ほかのところだと」
蓮見「芸風なんじゃないですか」
中島「個性なのかもね」