6年ぶりの新作長編がついに刊行!『ドライブ・マイ・カー』など映画で浸りたい村上春樹の世界
1979年にデビューして以来、国内外で高く評価され、大ベストセラー作家として第一線で活躍し続けている村上春樹。実に原稿用紙1200枚分になるという新作長編小説「街とその不確かな壁」が、4月13日(木)に新潮社より刊行される。これは2017年刊行の「騎士団長殺し」以来、6年ぶりとなる書き下ろし長編だ。村上の長編小説としては初めて、刊行と同日に電子書籍も配信となる。
学生時代は文学部映画演劇科に在籍し、映画のシナリオを数多く読んできたという村上。作中に古今東西の映画が度々登場する一方で、彼自身の作品も、1981年に公開された『風の歌を聴け』から、2021年公開の『ドライブ・マイ・カー』まで、いくつか映画化されてきた。ここでは、そんな映画化作品をまとめて振り返り、映像で創りだされる“ハルキ・ワールド”の奥深さを紹介したい。
村上春樹のデビュー作を映画化した『風の歌を聴け』
村上は1979年に処女作「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞してデビュー。村上にとって記念すべき最初の長編小説を、村上と同郷で、同じ中学の後輩でもあった大森一樹が脚本&監督を手掛けて映画化した。夏休みに故郷に帰省した大学生の主人公「僕」と、親友である鼠との再会、女の子との出会いが描かれていく。
主人公「僕」役に小林薫、女の子役に真行寺君枝、鼠役に巻上公一、三番目の女の子役に室井滋。村上作品特有の翻訳調のセリフを一部字幕にしたり、白壁にドキュメント映像を映したりと、ヌーヴェルヴァーグ的な映像表現の演出がちりばめられているのが特徴。ちなみに原作では小説家志望だった鼠が、自主映画を撮るという展開は映画オリジナルだ。
遊び心にあふれた短編2本『パン屋襲撃』&『100%の女の子』
『パン屋襲撃』(82)は同名の短編(「夢で会いましょう」に収録)、『100%の女の子』(83)は「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」(「カンガルー日和」に収録)という短編小説の映画化作品。2本とも監督は山川直人で、それぞれ10分台の短編映画。両作品に室井滋が出演している。8mmらしい遊び心にあふれたチャーミングな作品で、共にロンドン国際映画祭など10か国以上で上映された。
これらの短編は外国人監督にとっても魅力的だったようで、トム・フリント監督が映画化した『四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』(08)は、国際短編映画祭のCON-CANムービーフェスティバルに出品されている。また、「パン屋襲撃」の続編となる「パン屋再襲撃」は、カルロス・キュアロン監督が2010年に映画化し、ブライアン・ジェラティとキルスティン・ダンストが主人公の夫婦を演じた。
イッセー尾形と宮沢りえがそれぞれ1人2役を務めた『トニー滝谷』
80年代初頭の3本の映画、そして、短編小説「土の中の彼女の小さな犬」を映画化した『森の向う側』(88)のあと、しばらく映像化作品はなかったが、21世紀になって、村上春樹ファンの市川準監督が短編「トニー滝谷」(「レキシントンの幽霊」に収録)を映画化した(2004年製作)。トロンボーン奏者だった父を持ち、イラストレーターとして成功した主人公のトニー滝谷は、洋服が大好きな着こなしの美しい女性と恋に落ち、結婚する。しかし、妻との幸せな日々は長くは続かなかった…。
主演のイッセー尾形がトニー滝谷と、その父親である滝谷省三郎を2役で演じ、ヒロインの宮沢りえが、妻の英子と、妻亡きあとにトニーがアシスタントとして雇う久子を同じく2役で演じるという配役がポイント。物語や設定も、かなり原作に忠実な映画であり、原作の三人称の語りの部分は、西島秀俊が淡々とした朗読調のナレーションで担当した。坂本龍一の静かな音楽も胸に沁みる。本作は第57回ロカルノ国際映画祭にて、審査員特別賞・国際批評家連盟賞・ヤング審査員賞をトリプル受賞。世界各国でも上映され、高い評価を得た。