GG賞、SAG賞、BAFTA…出揃ったオスカー前哨戦の結果を総まくり!“映画業界の未来のための種蒔き”を提言する『エブエブ』が圧勝か?

コラム

GG賞、SAG賞、BAFTA…出揃ったオスカー前哨戦の結果を総まくり!“映画業界の未来のための種蒔き”を提言する『エブエブ』が圧勝か?

“オスカー前哨戦”の勝者、ダニエル・クワン監督「大きな夢を見るのが私たちの仕事」

インディペンデント・スピリット賞でそれぞれ主演俳優賞、助演俳優賞、ブレイクスルー賞(新人賞)を受賞したミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー
インディペンデント・スピリット賞でそれぞれ主演俳優賞、助演俳優賞、ブレイクスルー賞(新人賞)を受賞したミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー[c]2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

そして、例年だとアカデミー賞授賞式前夜に行われるインディペンデント・スピリット賞が、今年はオスカー投票期間中の3月3日にロサンゼルスのサンタモニカ・ピアの特設会場で行われ、“前哨戦”と呼ばれる賞が出揃った。製作費3000万ドル以下の映画が対象のため、オスカー作品賞にノミネートされている作品と完全に被るわけではないが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞、監督賞・脚本賞(ダニエル・シャイナートダニエル・クワン)、主演俳優賞(ミシェル・ヨー)、助演俳優賞(キー・ホイ・クァン)、今年新設されたブレイクスルー賞(新人賞、ステファニー・スー)を受賞している。インディペンデント・スピリット賞は今年から俳優賞の性別を撤廃。ジェンダー・ニュートラルとして主演・助演各10名がノミネートされた中での快挙だった。作品賞の受賞スピーチで、監督コンビ“ダニエルズ”のダニエル・クワンは「私たちはみんな、パンデミックの最中にインディペンデント映画やテレビ番組を作りました。それだけで超難しいことですし、称賛されるべきです」と、会場を埋めるクリエイターたちへのエールを贈り、早口で一気にこうまくし立てた。

ロサンゼルスのサンタモニカ・ピアの特設会場で行われたインディペンデント・スピリット賞に参席した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエル・シャイナート、ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ダニエル・クワン
ロサンゼルスのサンタモニカ・ピアの特設会場で行われたインディペンデント・スピリット賞に参席した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエル・シャイナート、ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ダニエル・クワン[c]SPLSAH/AFLO


「私たちはいま、ちょっとしたアイデンティティ・クライシスの真っ只中にいます。映像業界全体が、次になにが起こるかわからず混乱しています。インディペンデント映画にとって本当に恐ろしいことですが、そんな時こそ考え方を変えることを提案します。物事が激しく動き、土台に亀裂が入ったときがチャンスです。種を蒔くのに最適な時期なのです。未来に適応するだけでなく、自分は未来をどんなふうに書き換えたいのか、どんな未来で働き、生きていきたいのかを積極的に夢想することが、私たちの仕事です」

ダニエル・クワン監督は「パンデミックの最中にインディペンデント映画やテレビ番組を作った私たちはみんな称賛されるべき」と、会場に集まったクリエイターたちへのエールを贈った
ダニエル・クワン監督は「パンデミックの最中にインディペンデント映画やテレビ番組を作った私たちはみんな称賛されるべき」と、会場に集まったクリエイターたちへのエールを贈った[c]SPLSAH/AFLO

「ここにいる人々全員に、大きな夢を見ることを強く勧めます。私たちが行うことは、映画業界の上流へと流れていきます。私たちには特別な力があるのに、それは弱点のように見えます。なぜなら、私たちのやっていることはとても小さく、クズみたいなことだからです。しかし、それが私たちを柔軟にし、他の業界ではできないような動きを可能にするのです。皆さんにはぜひ、種を蒔いていただきたい。さて、では、どうすれば映画の撮影現場をもっと家族的で人間味溢れる場所にできるのか、一緒に考えてみましょう。どうすれば、より環境に優しい撮影環境を作ることができるのか?どうしたら映画撮影をカーボンニュートラルにできるのか?私にはわかりません。でも、大きな夢を見ましょう。いまがその時なのです。そして、今日ここにいる皆さんはプロデューサーであり、監督であり、俳優であり、これらの方法を決定するのはあなたたちです。私たちが伝えるのは、物語だけではありません。方法も重要なのです。一緒にやってみましょう。アイデアをシェアしてください。このようなすばらしい賞をいただき、本当にありがとうございました」

自分が望む未来を書き換えるために、いまこそ種を蒔こう。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で、恋人に誘われるがまま故郷を離れ渡米したエヴリン(ミシェル・ヨー)が、ありえたかもしれない未来の多元宇宙を旅するこの作品のテーマに、映画業界がこれから進む道を自分達が作るのだという強い抱負に重ねている。前哨戦各賞で圧倒的な強さを見せる『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だが、このダニエル・クワンのスピーチを聞くと、今作が2022年の映画を代表し、映画業界の未来を担う存在となるだろうと信じさせてくれる。これほどまでに強い提言を行ったのだから、もう賞の行方は決まったも同然なのではないだろうか。

文/平井 伊都子

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