演技派の面目躍如『マッシブ・タレント』、ボウイの思考そのもの『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、ニコラス・ケイジが、公私共に落ちぶれたスター“ニック・ケイジ”に扮するアクション、伝説のロックスター、デヴィッド・ボウイの人生と才能を綴るドキュメンタリー、ホー・ウィディン監督が、台北駅で発生した無差別殺人事件を軸にZ世代の苦悩を描いた群像劇の、リアリティがにじむ3本。
もっとも心打たれるのはケイジの純粋な“役者ばか”ぶり…『マッシブ・タレント』(公開中)
アカデミー賞主演男優賞に輝く高い演技力を持ちながら、近年は奇行や散在などお騒がせセレブの方で有名なニコラス・ケイジ。彼が自分自身を演じた異色のコメディサスペンスが本作だ。満足できる仕事が来ず、借金や別れた妻子との軋轢など私生活にも悩んでいる大物俳優ニック・ケイジ。100万ドルの報酬で大富豪のパーティにゲストで参加した彼は、思いがけず誘拐事件に巻き込まれてしまう。デビューから40年を超え、シリアスドラマからミュージカル、コメディ、アクション、スリラーなどジャンルや規模を問わず100本以上の作品に出演しているケイジ。本作はキャリアから私生活、趣味、趣向までケイジのパブリックイメージを完コピした落ちぶれ男が、俳優として人として輝きを取り戻していくお話だ。
彼の出演作のオマージュやパロディのほか、過去の出演作のフッテージも使用。ファンなら思わず涙なシーンの連続だが、もっとも心打たれるのはケイジの純粋な“役者ばか”ぶりが伝わってくるところ。自身をネタに笑わせながら、最後はしっかり感動へと持ち込むあたりさすが演技派の面目躍如である。(映画ライター・神武団四郎)
ボウイの思考そのものを追体験…『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』(公開中)
不世出のロックスター、デウィッド・ボウイのドキュメンタリーではあるが、そのキャリアをわかりやすくたどったり、人生にドラマを見いだしたり、というようなありきたりのドキュメンタリーではない。劇中の“声”は、ほぼボウイが生前に残したインタビュー音声。時間という概念に始まり、ビジュアルや歌詞の意味にもつながる発言や、伝えるべきメッセージ、人生について語る。すなわち、本作はボウイの思考そのものを追体験する試みなのだ。
ボウイ財団に保管されている膨大なフッテージの中から選ばれた音と映像の素材は、貴重なものもあり、ファンを驚かせるに違いない。全編を彩る名曲を噛み締めながら、天才アーティストの脳内を旅してみて欲しい。(映画ライター・有馬楽)
アジアならではの都会の熱気と湿気が入り混じった映像…『青春弑恋』(公開中)
長い航海から陸に戻った料理人、シャオジャン(リン・ジェーシー)はカフェ店員のユーファン(ムーン・リー)と恋に落ちる。そんな2人を台北駅で通り魔が襲う。ロマンティックなラブストーリーが一転、見知らぬ同士が実は奇妙な関係で結ばれていたことが明らかになっていくサスペンスフルな青春群像劇。
ゲームオタクの大学生ミンリャン(リン・ボーホン)、コスプレイヤーの高校生キキ(ヤオ・アイニン)、配信AVの罠にハマるモニカ(アニー・チェン)。相手のことを知っているようで、実は家族、恋人ですら理解していない、Z世代ティーンエイジャーの孤独に焦点を当て、浮かび上がらせるのはポスト「台湾ニューシネマ」の鬼才ホー・ウィディン監督。アジアならではの都会の熱気と湿気が入り混じった映像は時折、ウォン・カーウァイを思わせる。主役に抜擢されたリン・ボーホンは台湾期待の俳優。憑依したような演技に引き込まれる。ヒロインはNetflix「次の被害者」で金鐘奨最優秀新人賞を受賞したムーン・リー。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼