「マッドマックス」ファンのアニメーション監督小池健がアニャ・テイラー=ジョイのフュリオサを絶賛「シャーリーズ・セロンとのシンクロ率が高い!」
「アニャさんとシャーリーズ・セロンさんのシンクロ率が高い、凛とした佇まいがそっくり」
『怒りのデス・ロード』のプリクエルと位置づけられた本作は、フュリオサ誕生の物語。小池監督は主演に抜擢されたアニャ・テイラー=ジョイの“フュリオサぶり”を称賛した。「アニャさんと、前作のシャーリーズ・セロンさんのシンクロ率が高いんです。それは見た目が近いというよりも、コアにある信念の部分。凛とした佇まいがそっくりで、そこは驚かされました」。
本作には新キャラクターが続々と登場するが、なかでもクリス・ヘムズワースが圧倒的な存在感で演じたフュリオサの宿敵ディメンタスがお気に入りだという。「見た目が強そうで、やってることもダークなマインド全開のキャラクターではありますが、ユーモラスな一面もあって憎みきれない存在ですね。スピンオフがあってもよいくらい、魅力的なキャラクターになっていました」。
本作に魅せられたという小池監督が描いたのは、力強い瞳が印象的な躍動感あふれるフュリオサの姿。宿敵ディメンタスとフュリオサを結ぶテディベア、左上にはクライマックスで彼女が乗るクランキー・ブラックと、映画の世界が1枚に凝縮されている。「アニャさんの目力の強さを活かせる表情や、義手は外せないので手前のほうに入れ込みながら彼女の軽やかなアクションを絵にどう落とし込むかを考えながら描きました。フュリオサが着ているのは、『マッドマックス』のアイコンというべきダブルのライダーズジャケット。キャラクターではディメンタスと、『怒りのデス・ロード』に続いて登場したウォーボーイズもインパクトがあったので2人がジャンプするスタントを入れ込んで、全体のバランスをとりました」。
「足し算ではなく引き算で見せていく、その描写がすごく刺激的でした」
『アニマトリックス』(03)や「アフロサムライ」のパイロットフイルムなど海外作品でも活躍している小池監督。映像クリエーター目線で本作を観た印象を訊ねると、「アートのように美しい映像」という答えが返ってきた。「アクションのインパクトもすごいんですが、同時に優雅さも感じさせてくれました。空と大地と爆発シーンの組み合わせとか、メタリックなシルバーなど色彩を絞り込んで見せたい被写体をしっかり画面に入れ込む潔さはかっこよかったです。作品をつくる時はつい多くの要素を詰め込みがちになりますが、足し算ではなく引き算で見せていく、その描写がすごく刺激的でした」。
同じ映画人として、ジョージ・ミラーという監督は小池監督にとってどんな存在なのだろうか。「ひと言で言えば、偉大な映画監督。『マッドマックス』シリーズが代表作だと思っていますが、カーチェイスなどダイナミックなビジュアルの作り方はもちろん、テーマの織り込み方が気持ちいい。くさい言い方をすれば、正義と愛、その反対にある憎しみや復讐心、絶望感など、様々な感情がシンプルなストーリーにしっかり落とし込まれています。伝えたいメッセージをエンタテインメントとしてまとめる手腕はすばらしいし、そういう作品が撮れる監督になりたいですね」。
小池監督が初めて「マッドマックス」を知ったのは小学生の時に目にした第1作のポスターだった。「通学路に貼られていた映画館のポスターで、黒いインターセプターとアビエイターのサングラスをかけたマックスを組み合わせた絵柄を見て、ワイルドな映画が来るなと思ったのが最初です」と振り返る。その後、ビデオで『マッドマックス』(79)、そして世界観を一新した『マッドマックス2』(81)を観て夢中になったという。
宇宙最速をかけたカーレースを描いた痛快作『REDLINE』や『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』(14)など、多くの小池監督作にはダイナミックなカーアクションが盛り込まれている。そこには「マッドマックス」シリーズの影響が見てとれる。「人間の感情を代弁するツールとしてのカーアクションが大好きで、好んで使うことが多いんです。感情がむき出しになった時、生身だったらば殴り合いになるところを、カーアクションではハンドルの握り方や、路面への衝撃具合などで表現します。マシンを使ったフィジカルな表現が大好きで、そこには『マッドマックス』の影響が強くあると感じています」。
ミラー監督が「映像のロックンロール」と表現する「マッドマックス」シリーズ。激しいアクションや壮大なロケーションなど、最新作もスクリーンと大音響で体感すべき作品に仕上がった。「体験型ジェットコースタームービーなので、初めて会う大勢の人たちと一緒に感動を共有できることがなにより楽しいと思います。スクリーンや音響面もそうですが、ぜひ映画館という空間で味わってほしい作品ですね」。
取材・文/神武団四郎