黒沢清×高橋洋のタッグが生んだ「復讐ホラー」の名作『蛇の道』。忘れてはいけないオリジナル版の秀逸さ - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
黒沢清×高橋洋のタッグが生んだ「復讐ホラー」の名作『蛇の道』。忘れてはいけないオリジナル版の秀逸さ

コラム

黒沢清×高橋洋のタッグが生んだ「復讐ホラー」の名作『蛇の道』。忘れてはいけないオリジナル版の秀逸さ

85分という短い尺に凝縮された、演出、脚本の妙

内容自体は極めてシンプル。簡単にいえば「哀川翔主演の復讐もの」だ。しかし、内容はそれだけに収まらない、かなり異様なものとなっている。香川照之演じる、娘を残虐な手口で殺された父親、宮下。なぜか彼に協力する謎の塾講師、新島を哀川が演じている。2人は娘の死に関与していると思われる組織の幹部を拉致し、どこかの工場で監禁する。

リメイク版『蛇の道』では、柴咲コウが新島、ダミアン・ボナールが宮下にあたる役柄を演じる
リメイク版『蛇の道』では、柴咲コウが新島、ダミアン・ボナールが宮下にあたる役柄を演じる[c] 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

宮下は非道な犯罪に巻き込まれた被害者家族であるにもかかわらず、なぜか一連の「復讐」を行う過程で高揚している。絶望している表情でもあり、怒りもぶちまけるが、どこか楽しそうなのである。まるで、自身の暴力性の正当な発露の動機として「復讐」という理由に固執するかのように。

対する新島は淡々と指示を出し、あたかも日常のルーティンかのように、職場の(謎の数式が世界の法則そのもののような奇妙な授業が行われる)塾で仕事をし、翌朝も監禁場所にやってくる。黒沢監督は「優しいお父さんと残虐な犯罪者というのは矛盾しない」という人間観を『CURE』のインタビュー等で示している。新島はそんな人間観を反映したような、一見すると平凡な塾講師のようでありながら、動機不明の復讐の遂行者として不気味に描かれる。


【写真をみる】なぜ新島は復讐に協力するのか…オリジナル版とリメイク版での描かれ方の違いにも注目したい
【写真をみる】なぜ新島は復讐に協力するのか…オリジナル版とリメイク版での描かれ方の違いにも注目したい[c] 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

どこか信頼できない復讐者。謎の多い協力者。そして、二転三転する監禁された組織の男の証言。さらに次々に拉致される組織の幹部たち。食い違う証言の数々。このように、高橋の脚本は80分ほどの短い上映時間に、無駄のないストーリーテリングでまったく余談を許さない殺伐とした、空恐ろしい人間の狂気を描き出す。

そして、黒沢は、低予算かつ短期間のオリジナルビデオの制約を逆手に取り、『CURE』でもみられる特徴的な長回しとロングショットを多用した緊張感のある乾いた画面の連続でそれを演出してみせた。

■近藤亮太 プロフィール
1988年生まれ、北海道出身。映画監督。2017年に映画美学校フィクションコース高等科を修了し、2022年にKADOKAWA主催「第2回日本ホラー映画大賞」にて大賞を受賞。受賞した同名作品を長編映画として拡張した『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(公開日未定)が商業映画監督デビュー作として公開を控えている。また、テレビ東京「TXQ FICTION」に演出として参加している。

「MOVIE WALKER PRESS」のホラー特化ブランド「PRESS HORROR」もチェック!
作品情報へ

関連作品