黒沢清×高橋洋のタッグが生んだ「復讐ホラー」の名作『蛇の道』。忘れてはいけないオリジナル版の秀逸さ - 3ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
黒沢清×高橋洋のタッグが生んだ「復讐ホラー」の名作『蛇の道』。忘れてはいけないオリジナル版の秀逸さ

コラム

黒沢清×高橋洋のタッグが生んだ「復讐ホラー」の名作『蛇の道』。忘れてはいけないオリジナル版の秀逸さ

「原理」の概念で構築された唯一無二の世界観

ストーリーはシンプルな構造ではあるものの、演出や編集には一筋縄ではいかない要素が数多くみられるのも特徴だ。たとえば、塾に通う小学生の少女は新島を慕っており、2人で謎の数式を公園の地面に書き続けている、というシーンがある。明らかにほかのシーンとは異なるトーンで、まるで「幻」あるいは「あの世」のようにも見える撮り方になっており、このシーンがあることで、まるですべての出来事が最初から運命づけられていたかのような感覚に陥る。本作において、復讐は「結果」ではなくて「始まり」なのである。

黒沢清監督がセルフリメイクした『蛇の道』は6月14日(金)に公開される
黒沢清監督がセルフリメイクした『蛇の道』は6月14日(金)に公開される[c] 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

高橋はこれを「復讐という原理」と表現している。だから『蛇の道』の世界で描かれるのは、いわばコントロール不能な原理によって否応なく動く人々のもがきなのである。

また、黒沢監督が手掛けた『カリスマ』(99)では「世界の法則を回復する」というキーワードが提示されていた。これもやはり、人間の外にゴロンと存在する世界=原理という概念を感じさせる。「やられたからやり返す」ような個人的な動機を超えた、「映画の原理」や「復讐の原理」の中で蹂躙される人々。20世紀末、黒沢と高橋の2人はそのような世界観を示していた。

リメイクされるいまだからこそ、オリジナル版に立ち返る

さらに、クライマックスにおける一連における「ブラウン管テレビ」の扱い方や、そこで映し出される「観てはいけない映像」の質感も凄まじい。ここでは明らかに『リング』の延長ともいえるような表現が試みられている。観たら自分は狂ってしまうだろう、でも目を離すことができない。ザラついた画面に映し出される「地獄」のような映像。そしてそれを観てしまった人間のリアクションがはっきりと映し出される。怖すぎる!

だから、これは「哀川翔主演の復讐もののオリジナルビデオ作品」といった表現ではまったく収まっていないのである。あえてジャンルわけするなら「復讐ホラー」である。しかも、単に「人間が怖い」みたいなものではなく、しっかりと体の芯まで冷えるような、それこそ『リング』や『回路』で感じるような怖さが刻まれているのである。

そして、異形の名作『蛇の道』が、今回のリメイクで果たしてどのように生まれ変わるのか?低予算、短期間の制約も(おそらく)ない、哀川主演でもない、国も言語も違う。いったいなにが生み出されたのだろうか。リメイク版の公開を前に、本日5月24日20時からYouTubeチャンネル「角川シネマコレクション」にて1998年版の『蛇の道』がプレミア公開され、5月31日(金)19時59分までの2週間、アーカイブでの視聴が可能となっている。異国の地で変奏される新たな恐るべき復讐劇を見届ける前に、オリジナル版の視聴をオススメしたい。


文/近藤亮太

■近藤亮太 プロフィール
1988年生まれ、北海道出身。映画監督。2017年に映画美学校フィクションコース高等科を修了し、2022年にKADOKAWA主催「第2回日本ホラー映画大賞」にて大賞を受賞。受賞した同名作品を長編映画として拡張した『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(公開日未定)が商業映画監督デビュー作として公開を控えている。また、テレビ東京「TXQ FICTION」に演出として参加している。

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