米国ドラマシーンの“いま”を知る作品はこれだ!「SHOGUN 将軍」「一流シェフのファミリーレストラン」などディズニープラスの高品質ドラマをピックアップ
忙しない1日を終えるにふさわしい”コンフォート・ドラマ”「マーダーズ・イン・ビルディング」
NYのアッパーウエストサイドにあるアパートを舞台に、“トゥルー・クライム(犯罪実録)ポッドキャスト”を手掛ける3人――俳優のチャールズ(スティーブ・マーティン)と、劇作家のオリバー(マーティン・ショート)、そしてZ世代のメイベル(セレーナ・ゴメス)――が、殺人事件の捜査に乗りだす。2人の老人と世代を超えた友情を結ぶメイベルの掛け合いがおもしろく、ドラマはすでにシーズン4(8月27日より配信予定)まで継続中。ゲストにはメリル・ストリープ、スティング、ジミー・ファロンらが名を連ねている。毎年常連のエミー賞だが、今年はセレーナ・ゴメスの初のコメディ部門主演女優賞候補を含む21ノミネートを記録している。
「マーダーズ・イン・ビルディング」の見どころは、なんと言っても“安定感”。1話30分前後の手頃なサイズ、スティーブ&ショートのWマーティンの軽妙で安定したコメディ演技に、セレーナ・ゴメスが豪快に突っ込みを入れる姿を見るだけで大爆笑、忙しない1日を終えるにふさわしい、コンフォート・ドラマ(観ると安心するドラマ)と言える。ショーランナーのジェフ・ホフマンは人気シットコム「グレイス&フランキー」(Netflix)でも知られているだけあり、密室(シチュエーション)コメディづくりはお手のもの。この手のドラマの成功はまずキャスティングにあり、Wマーティンだけでなくセレーナ・ゴメスを起用したのが勝因だ。ミュージシャンとしての知名度が高いゴメスだが、実は子役出身。女優としてのポテンシャルも高く、コメディアンの大先輩2人と見事な三つ巴を形成している。
マイケル・キートン主演の社会派ドラマ「DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機」
第74回エミー賞において、マイケル・キートンが主演男優賞 (リミテッド/アンソロジー・シリーズ部門) を受賞。キートンが演じる地方都市の診療所の医師、彼に新薬を売り込む製薬会社MRをウィル・ポールター、製薬会社社長にマイケル・スタールバーグ、鎮痛剤を処方される患者にケイトリン・デヴァー、製薬会社と麻薬系鎮痛剤を追う検察官にピーター・サースガードと、豪華キャストがそろっている。全8話のリミテッド・シリーズながら1本の長い映画を観ているような緊張感と没入感が続く作品だ。
1999年以降、アメリカでは大手製薬会社パーデュー・ファーマ社の処方鎮痛剤オキシコンチンなど、麻薬性鎮痛薬オピオイドを含む鎮痛剤が大量に処方され、中毒患者が続出した。この「オピオイド危機」によって60万人以上が死亡。集団訴訟の被告となったパーデュー社は2020年に米司法省に対し60億ドル超の和解案に合意し、罪を認めた。だが、現在も数千件の個人訴訟は継続しているうえに、2024年6月には米最高裁がパーデュー社の創業主のサックラー家の保護措置を含む和解策を無効化。いまもなお大きな社会問題となっている。
アメリカ国外ではあまり知られていないかもしれないが、「オピオイド危機」は現在進行形の社会問題。同様の主題を扱う作品も多く、「DOPESICK」がおもにパーデュー社の川下で市民に与える影響を描いているのに対し、「ペイン・キラー 死に至る薬」(Netflix)では、リチャード・サックラー役をマシュー・ブロデリックが演じ、資産家一族の新薬開発の裏側を暴く。また、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したドキュメンタリー『美と殺戮のすべて』(22)では、写真家のナン・ゴールディンがNYのメトロポリタン美術館に巨額の寄付を行うサックラー家に一撃を喰らわせる。社会問題と近接したドラマシリーズは、報道で知る事件により多角的な視点を与えてくれる。
文/平井伊都子
※西岡徳馬の「徳」は旧字体が正式表記