Blu-ray&DVDで目撃!『海辺の映画館-キネマの玉手箱』大林宣彦“A MOVIE”の終着点|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
Blu-ray&DVDで目撃!『海辺の映画館-キネマの玉手箱』大林宣彦“A MOVIE”の終着点

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Blu-ray&DVDで目撃!『海辺の映画館-キネマの玉手箱』大林宣彦“A MOVIE”の終着点

2020年4月10日に死去した映画作家、大林宣彦が映像純文学への試みとして生涯追求し続けた〝A MOVIE〞。その集大成となったのが遺作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』のBlu-ray&DVDが3月10日(水)にリリースされる。大林映画の常連で出演者のひとりである常盤貴子が「大林監督が見るであろう走馬灯のような作品」と舞台挨拶で称した本作は、監督の映画に対する愛情が映像からあふれ出る大林版『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)とも言うべき作品。尾道の海辺の映画館でスクリーンの中に入り込んでしまった3人の青年が、戊辰戦争や原爆投下前夜の広島など戦争映画の世界を旅するというエンタメ要素満載の物語に込められた「戦争」への辛辣なメッセージ、ワン&オンリーの映像世界、そして20年ぶりに自身の映画の舞台にした故郷の尾道への思い。驚きと感動に満ちた大林宣彦ワールドを探求していこう!

【写真を見る】戦争の歴史を辿りながら、無声映画、トーキー、アクション、ミュージカルと様々な映画表現で展開していく
【写真を見る】戦争の歴史を辿りながら、無声映画、トーキー、アクション、ミュージカルと様々な映画表現で展開していく[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

20年ぶりに故郷の尾道へ

大林作品の故郷でもある尾道が再び映画の舞台に
大林作品の故郷でもある尾道が再び映画の舞台に[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

主人公の馬場毬男を演じた厚木拓郎や、ミッキー・カーチス、根岸季衣が出演した新尾道3部作『あの、夏の日~とんでろ じいちゃん~』(99)以来、20年ぶりに同地でメイン・ロケを敢行。尾道水道や迷路のような小路が印象的だ。また当時のスタッフも数多く参加し、厚木は「ご一緒できたのがうれしい」とも。

大林ワールドのスターが集結

大林作品に縁のある俳優陣が総出演!
大林作品に縁のある俳優陣が総出演![c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

『花筐/HANAGATAMI』(17)にも出演した山崎紘菜や常盤貴子、細山田隆人、満島真之介、窪塚俊介、南原清隆、柄本時生、片岡鶴太郎、武田鉄矢らが参加。さらに尾道3部作の尾美としのり、『ふたり』(91)の中江有里『水の旅人侍KIDS』(93)の伊藤歩、『青春デンデケデケデケ』(92)の浅野忠信ら大林作品を支えた俳優が総出演した。

戦争3部作のその先へ

スクリーンの中に入り込んだ若者3人は戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島へタイムリープする
スクリーンの中に入り込んだ若者3人は戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島へタイムリープする[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

大林的戦争3部作『この空の花-長岡花火物語』(12)、『野のなななのか』(14)、そして『花筐/HANAGATAMI』(17)同様、戦争を知らない世代に向けた平和への思いが込められた本作。生前、親交を結んだ故黒澤明監督から託された「映画には必ず世界を戦争から救う、世界を平和に導く、美しさと力がある」との願いが詰まっている。

映像の魔術師の本領発揮

大林監督の『四月の魚』(86)に主演した高橋幸宏も出演
大林監督の『四月の魚』(86)に主演した高橋幸宏も出演[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

モノクロから徐々に色がつくオープニングに驚いた『時をかける少女』(83)や、アニメや合成を駆使した『ねらわれた学園』(81)などで“映像の魔術師”と称された監督。本作でも宇宙船内に巨大金魚が浮遊するショットや唐突なクレイ・アニメの挿入、カウントダウンや提供読みを盛り込んだオープニングなど自由かつ実験的な映像が展開する。

愛にあふれる映画オマージュ

3歳で活動写真機を手にして幼少から映画制作を始めた大林監督の記憶、体験、想いがぎっしりと詰めこまれた
3歳で活動写真機を手にして幼少から映画制作を始めた大林監督の記憶、体験、想いがぎっしりと詰めこまれた[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

常盤貴子が往年の名女優、園井恵子に扮した『無法松の一生』(43)の引用や内田吐夢監督作『宮本武蔵』(61)、『ターザン』など映画オマージュが満載。『雨に唄えば』(52)のパロディ看板も登場。大林監督自身が謎の米国人映画監督、親交のあった映像作家の手塚眞が小津安二郎監督、犬童一心が山中貞夫監督を演じているのも楽しい。

リンクする大林宣彦ワールド

身体が入れ替わってしまった男女の中学生を描いた青春映画『転校生』
身体が入れ替わってしまった男女の中学生を描いた青春映画『転校生』[c]NTV.ATG

大林監督の集大成となった『海辺の映画館~』には、過去作へのリンクが数多く散りばめられている。妹を守るために体を売ろうとする女性、斉藤一美(成海璃子)は、尾道3部作第1作となる『転校生』(82)で小林聡美が演じたヒロインと同じ名前。小林の相手役を務めた尾美(新選組の近藤勇役)や一美の母親を演じた入江若葉(かつて演じた『宮本武蔵』のお通役)も出演している。また、未来から来た青年が少女と恋する展開は、尾道3部作第2作『時をかける少女』(83)を彷彿とさせ、山崎紘菜が演じる芳山和子は同作のヒロインと同じ名前だ。和子の担任教師役の根岸、和子の母役だった入江は『海辺の映画館~』にも出演。『ふたり』にも登場した尾道の艮神社は3作品共通のロケ地になっている。劇中で監督自身が弾いたショパンの「別れの曲」は、尾道3部作完結編『さびしんぼう』(85)でも印象的に使われた。常盤演じるヒロイン、橘百合子の名前や吉田玲演じるセーラー服姿の少女が自転車でフェリーに乗り込む映像も同作からの引用だ。

松任谷由実が作詞作曲し、ヒロインを演じた原田知世が歌った主題歌も大ヒットした『時をかける少女』
松任谷由実が作詞作曲し、ヒロインを演じた原田知世が歌った主題歌も大ヒットした『時をかける少女』[c]KADOKAWA 1983

主人公の馬場毬男の名前と演者(厚木)は『マヌケ先生』(00)と同じ。『海辺の映画館~』の回想場面では『マヌケ先生』の映像が流れ、劇中で先生のアニメが登場するのも共通している。一美が遊郭で働くようになる展開は、鷲尾いさ子が演じるお昌ちゃんが四国の遊郭に売られる『野ゆき~』ともそっくり。尾美、根岸、入江、小林稔侍と同作のキャストも多数出演している。本作の舞台となる映画館、瀬戸内キネマ。入江の怪演が光る『麗猫伝説』、『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群』(88)に続き、監督の映画に3度目の登場を果たした。

全編にショパンの「別れの曲が流れる『さびしんぼう』
全編にショパンの「別れの曲が流れる『さびしんぼう』[c]1985東宝

『海辺の映画館~』でスクリーンの中に入り込む3人の青年の名前、馬場毬男はマリオ・バーヴァ、鳥鳳介はフランソワ・トリュフォー、団茂はドン・シーゲルと、名匠たちをモチーフに名付けられている。元々は劇場デビュー作『HOUSE ハウス』(77)を監督した際の変名に用意した名前だった。中原中也の詩からの引用は、『ÉMOTION 伝説の午後・いつか見たドラキュラ』(66)と同じ。ちなみに『野のなななのか』は、中原の『羊の歌』の断章から始まる。月をバックにした構図や兵隊が川の上を行進するシーンは、『花筐~』とオーバーラップ。平和への願いというテーマはもちろん、常盤をはじめとするキャストなど共通点が多い。

Blu-ray特典には約60分のメイキングと特製ブックレット。エネルギッシュに演出する大林監督の最後の勇姿を目に焼き付けたい
Blu-ray特典には約60分のメイキングと特製ブックレット。エネルギッシュに演出する大林監督の最後の勇姿を目に焼き付けたい[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/ PSC

文/サードアイ

■『海辺の映画館-キネマの玉手箱』
3月10日(水)リリース
Blu-ray(6,800円+税)、DVD(3,800円+税)
発売元・販売元:バップ

■『転校生』
DVD(4,800円+税)発売中
発売元・販売元:バップ

■『時をかける少女』
Blu-ray(2,000円+税)、DVD(1,800円+税)発売中
発売元・販売元:KADOKAWA

■『さびしんぼう』
Blu-ray(4700円+税)、DVD(2,500円+税)発売中
発売元・販売元:東宝

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