ジェニファー・ハドソンにレディー・ガガ…演技力と歌声で、世界を感動の渦に巻き込んだ俳優&歌手たち
映画のジャンルで、無条件に観る者のテンションを上げるのが、音楽エンタテインメント。『ラ・ラ・ランド』(16)、『グレイテスト・ショーマン』(17)、『ボヘミアン・ラプソディ』(18)など、ここ数年、サプライズ的なヒットを記録した作品が、その法則を証明している。その大きな要因の一つが、演者である俳優が披露する“歌”の力だ。
映画の場合、俳優の歌を吹替にすることも可能だ。しかし観客は、本人ではない声の違和感をすぐにキャッチしてしまうのも事実であり、特に近年、“歌える”俳優の実力が重要なカギになっている。ライブパフォーマンスのような感覚で観ているこちらをいかに魅了するのか、そこが成否の分かれ目だ。本コラムでは前述したような大ヒット作から11月5日(金)公開の最新映画『リスペクト』まで、“歌”で輝きを放ったスターを切り口に、音楽エンタテインメント映画の魅力を紐解いていく。
レディー・ガガにクリスティーナ・アギレラ…“歌姫”たちの圧倒的な歌声に聴き惚れる!
最近の作品で、圧倒的なボーカルを見せつけたのが『アリー/スター誕生』(18)ではないだろうか。バーのウェイトレスが歌の才能を認められ、大スターへの階段を駆け上がるこの物語で、ヒロインの歌唱力は最重要ポイント。“歌姫”レディー・ガガという最高のキャスティングが実現し、主人公アリーの魂を揺さぶるパフォーマンスシーンが完成した。ガガにとってこれは初めての主演作だったが、演技の才能も絶賛され、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
『アリー/スター誕生』のように、もともとアーティストとして人気を得た歌手を主演に迎えれば、歌唱力で勝負できる。そのパターンが、『バーレスク』(10)のクリスティーナ・アギレラだ。田舎町からロサンゼルスへ来て、スターを目指す同作のヒロインは、アギレラにとっては映画デビューの役となった。この作品はミュージカルなので、彼女は持ち前の歌唱力を発揮しつつ、初々しい演技が印象的だった。同じように、カリスマ的な実績を誇るシンガーがミュージカル映画で活躍するパターンは、『キャッツ』(19)にメインキャストで参加したテイラー・スウィフトなど数多い。
『レ・ミゼラブル』&『グレイテスト・ショーマン』出演のヒュー・ジャックマンなど、演技力に歌唱力、さらにダンスでも魅せるスターたち
一方で、俳優としてスターになった人が、思わぬ歌唱力で音楽エンタテインメント映画を成功させることもある。『アリー/スター誕生』は、監督とガガの相手役を務めたブラッドリー・クーパーが、カントリーロック歌手として味わい深い熱唱を披露した。俳優たちの隠れた才能、および役作りによって誕生する、こうした意外性の高いパフォーマンスも忘れがたい。
このパターンで最高レベルと言えるのが、ヒュー・ジャックマンだろう。『グレイテスト・ショーマン』の主人公として、数々のナンバーを華麗なダンスとともに歌い上げ、観る者を陶酔させた。もともとジャックマンは、オーストラリア時代から舞台やミュージカルでキャリアを積んでおり、ブロードウェイでも歌い踊っていたので、このパフォーマンスは当然といえば当然。
そのジャックマンを中心に“歌える”実力派俳優が勢ぞろいしたのが『レ・ミゼラブル』(12)。歌いこなすうえでハイレベルな楽曲の数々を、ほとんどのシーンでライブ録音(撮影時の歌声をそのまま使う)したこの作品は、まさに“演者が想いを込めて歌う”究極として、多くの人の胸を打った 。なかでも本作でアカデミー賞助演女優賞に輝いたアン・ハサウェイによる「夢やぶれて」の熱唱は、映画史に残ると言える名場面だ。
『ロケットマン』に『ジュディ 虹の彼方に』…最高峰の音楽映画
そのほかにも『オペラ座の怪人』(04)のジェラルド・バトラー、『マンマ・ミーア!』(08)のメリル・ストリープなど、ミュージカル映画でのスターの活躍は多いが、ミュージカルで、しかも実在のシンガーを演じるという難度の高いチャレンジだったのが『ロケットマン』(19)のタロン・エガートン。エルトン・ジョンという生けるレジェンドになりきり、名曲の数々をピアノ演奏も特訓して歌い上げた。音楽エンタテインメントとしての理想形を目指した作品と言えるだろう。
『ロケットマン』のように伝説的な存在になりきって歌にも挑むというのは、俳優にとって一度は実現したい夢なのかもしれない。近年では、『ジュディ 虹の彼方に』(19)でジュディ・ガーランドが憑依したように熱唱したレニー・ゼルウィガーもその一例。見事に彼女はアカデミー賞主演女優賞を受賞したが、越えるハードルが高い分、やりきった姿に観ているこちらの心は震えてしまう。