「LOTR」アラゴルン役から初監督作『フォーリング』まで…名優ヴィゴ・モーテンセンの歩み
デヴィッド・クローネンバーグ監督作『イースタン・プロミス』で初のオスカー候補に
「ロード・オブ・ザ・リング」でハリウッドスターの仲間入りをしたものの、その後もセレブな生活とは距離を置き、独自の作品選びを貫いていくモーテンセン。馬好きな彼らしく、乗馬での長距離耐久レースを描いたアクション『オーシャン・オブ・ファイヤー』(04)で主演を務めた以降は、監督&主演のエド・ハリスの相棒役で登場した西部劇『アパルーサの決闘』(08)や良心の呵責に揺れるナチス親衛隊の幹部を演じた『善き人』(08)、『ノーカントリー』(07)などで知られるコーマック・マッカーシーのベストセラー小説を映画化した『ザ・ロード』(09)といった作品に出演し、インディペンデント系の作品やスペイン映画『アラトリステ』(06)など英語圏以外の作品での活躍も目立っていく。
特に印象的なのが、カナダの鬼才、デヴィッド・クローネンバーグとのタッグだろう。カンヌ国際映画祭のパーティでクローネンバーグと知り合ったモーテンセンは、主演作の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)と『イースタン・プロミス』に、心理学者のフロイト博士を演じた『危険なメソッド』(11)を加えた3作に連続で出演している。そのなかでも、ロシア・マフィアの運転手をしているミステリアスな男、ニコライを演じた『イースタン・プロミス』では、初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。
公衆浴場での全裸の大立ち回りがインパクト大な『イースタン・プロミス』だが、モーテンセンの語学センスが遺憾なく発揮された作品でもあり、完璧なロシア語に加えて、ロシア語訛りの英語も操っている。この点についてクローネンバーグは、本作のDVDに収録されたインタビュー映像のなかで、「ヴィゴは語学に関して良い耳を持っている。非常にヨーロッパ色の強い役者でもあり、彼なら本物のロシア人になれると思った。言葉だけでなく、姿勢や歩き方もね」と絶賛。一方のモーテンセンも「一緒に仕事がしやすい」と応えており、2人が固い信頼関係で結ばれていることがうかがえる。クローネンバーグ作品では、企画が進行中の最新作『Crimes of the Future』というSF映画にモーテンセンが出演予定であることも報じられており、久々の2人のタッグには高い期待を感じずにはいられない。
『偽りの人生』や『涙するまで、生きる』、『約束の地』にプロデューサーとして参加
2010年代に入ると、双子を一人二役で演じたアルゼンチン映画『偽りの人生』(12)で、初めての作品プロデュースを経験している。この作品の企画が動いたのはまったくの偶然で、本作で商業監督デビューを飾ることになるアナ・ピーターバーグがブエノスアイレスにある水泳教室に息子を連れて行った時に、たまたまそこにいたモーテンセンに遭遇(アルゼンチンはモーテンセンにとって“第二の故郷”とも言える場所)。そこで思い切って自己紹介をした彼女は、温めてきた脚本を読んでもらいたいと頼んだそうだ。
それから数か月後、モーテンセンからメールで「ストーリーに感銘を受けた」との返事が。彼は主人公を演じただけでなく、プロデューサーとしてもアルゼンチンに何度も足を運び、準備段階から作品に携わっていった。
本作以降もノーベル文学賞作家、アルベール・カミュの短編小説を映画化した『涙するまで、生きる』(14)、異国の地で失踪した娘を捜す父親の孤独な旅を幻想的に描いた『約束の地』(14)でも、主演&プロデューサーとして参加し、後者では劇中曲も制作している。また俳優業の傍ら、詩人、カメラマン、画家としても活動し、2002年にはアート系の出版社パーシヴァル・プレスも設立するなど、多岐にわたるジャンルで表現者としての才能を発揮してきた。そんなモーテンセンだからこそ、監督に挑戦することも必然だったと言えるだろう。