“『マトリックス』以降”と言われる影響力を考察。『リベリオン』『インセプション』へとつながる映画史に迫る
様々な形で仮想世界が存在する社会を創出
『マトリックス』の世界に生きる人類は、真実を知らずにポッドの中で家畜のように生かされていたが、自らの意思でポッドに入っていたのが『サロゲート』(09)だ。人々は自宅に引きこもり、理想的な外観に仕立てたアバターロボットを遠隔操作することで“リアルの仮想世界”となった社会生活を送っている。ただし、ブルース・ウィリスが演じた主人公の警官は、アバターを破壊されて以降は常に生身で行動しており、この社会の問題点を暴きだした。
仮想世界を潜在意識に置き換えたと言えるのが、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(10)。夢のなかでスパイ戦を繰り広げる設定についてノーランは、「現実世界と同じ価値の仮想世界というアイデアは『マトリックス』の影響で生まれた」と告白している。世界を歪めてしまう重力無視のアクションなど、視覚面での影響も見てとれる。ちなみにノーランは、『メメント』(00)でも現実と非現実の対比を描いており、メインキャスト3人のうち2人が、トリニティ役のキャリー=アン・モスと裏切り者、サイファーを演じたジョー・パントリアーノと『マトリクス』の出演者をキャスティング。たまたま、ではないだろう。
アクション映画の方法論を変えたカンフーやガン=カタ
カンフーの要素を取り入れた『マトリックス』は、アクション映画の方法論でも画期的な作品だった。それまでのカンフーアクションは香港の俳優を起用したり、アクションダブルを使うのが定番だったが、ウォシャウスキーの2人は香港のアクション監督、ユエン・ウーピンを武術指導に起用。キアヌ・リーヴスやローレンス・フィッシュバーン、アン・モスらを特訓し、可能な限り本人がアクションを行っていた。顔見せで行う激しいアクションが話題になり、このスタイルはハリウッドに定着する。
キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューの「チャーリーズ・エンジェル」シリーズは、3人の激しいファイトが見せ場。本作では、ウーピンの兄で「マトリックス」シリーズにも参加したユエン・チュンヤンが武術指導を担当した。チュンヤンはその後、ベン・アフレック主演のアメコミヒーロー映画『デアデビル』(03)にも携わっている。
『マトリックス』と並び称されるSF格闘アクション『リベリオン』(02)には、銃を使った武術“ガン=カタ”を操る捜査官が登場。主演のクリスチャン・ベールはスタントダブルをほとんど使わず、超絶アクションを自ら演じるなど高評価を獲得。ガン=カタはアクション指導のジム・ラモス・ヴィッカースとカート・ウィマー監督が、空手をベースにガンアクションをプラスして創作された。
実践射撃と格闘技を組み合わせた実践アクション“ガンフー”が味わえるのが、リーヴス主演の「ジョン・ウィック」シリーズだ。監督のチャド・スタエルスキはリーヴスのスタントダブル出身で、『マトリックス リローデッド』(03)や『マトリックス レボリューションズ』(03)では格闘監修も担当した。ちなみに『マトリックス レザレクションズ』で、ティファニー(=トリニティ)の夫チャドを演じているのがこの人。トリニティは別の世界で、リーヴスではなく代役を選んでいたというお遊びがおもしろい。なお、今作のネオは髭面だが、もしかしてジョン・ウィックを意識したのかも?