“『マトリックス』以降”と言われる影響力を考察。『リベリオン』『インセプション』へとつながる映画史に迫る
時間がゆっくりと流れるトリップ感がクセになるバレットタイム!
『マトリックス』は、デジタルを取り入れたビジュアルも革新的だった。なかでも映画を象徴する見せ場を生みだしたのが、“バレットタイム”と呼ばれるテクニックで、カメラを移動しながら行う超スローモーション撮影だ。
この表現自体はCGが浸透した1990年代半ばよりCMやMV、映画でも使われていたが、『マトリックス』では被写体の周囲を取り囲むように置かれた122台のデジタルカメラで1コマずつ順に撮影。各コマの間を3DCGで補完することで、高画質で自由な表現が可能になった。急ブレーキをかけたように時間の流れが急減速する様はトリップ感すら味わえるほど。その強烈なビジュアルは『最終絶叫計画』(00)などパロディとして再現され、ロボットが反乱を起こす『アイ,ロボット』(04)など多くのSFアクションに影響を与えた。
そんななか、特出していたのが「マトリックス」シリーズを製作したジョエル・シルヴァーが手掛けた『ソードフィッシュ』(01)だ。冒頭で人間が爆発するカットには、バレットタイム風のタイムラプスを使用。爆発する人物を中心にカメラが円を描くように周囲を移動し、警官や車両が吹き飛ぶ様を超スローモーションで捉えていった。実写と3DCGの組み合わせだが、カメラが建物の壁をすり抜けながら移動するなどトリッキーな映像は圧巻だった。
また、90年代より映画のなかで、しばしばデジタルヒューマンを目にするようになった。デジタルヒューマンとは、危険なシーンのスタントや縦横無尽に活躍するヒーローなど、俳優の撮影が難しい映像に使われる3DCGのキャラクターを指す。『マトリックス リローデッド』には、300人に増殖したエージェント・スミスや、ネオに殴られ顔が変形するスミスのショットなどにデジタルヒューマンを使用。リアルな動きをさせるため、一部スタントチームによるモーション・キャプチャーも使われた。現在は当たり前のテクニックだが、生身の人間を、これだけ大写しで大量に作りだしたのは本シリーズが初めてだった。
豊かなイマジネーションと先進的テクノロジーの融合が、『マトリックス』を先駆的な記念碑に仕立てるに至った。最新作『マトリックス レザレクションズ』では、どんな映像が盛り込まれているのか、スクリーンで確認してほしい。
文/神武団四郎