東宝株式会社は10月16日、同社の米国での事業を統括する子会社であるToho Internationalが、アニメーション作品の製作・配給を手掛けるGKIDSの全株式を取得する株式譲渡契約を締結したことを発表。株式譲渡の実行日は未定だが、2025年2月期中にもGKIDSは東宝の連結子会社となる予定だ。そこで本稿では、海外アニメファンならば一度は耳にしたことがあるであろうGKIDSという企業について紹介していきたい。
アニメ界に革新をもたらし、設立16年で13作品をオスカーへ!
ニューヨーク国際児童映画祭を運営していたエリック・ベックマンによって2008年に設立されたGKIDSは、ミシェル・オスロ監督の『アズールとアスマール』(06)を皮切りに、北米以外の国や地域で制作された優れたアニメーション作品を、北米圏に紹介する役割を果たしてきた。
設立翌年には、アイルランドのカートゥーン・サルーン制作の『ブレンダンとケルズの秘密』(09)の北米配給を担当。同作が第82回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされたのを契機に、それまでアメリカの大手スタジオが中心となっていた同賞の勢力図を一変させ、GKIDSも賞レースの常連として名を馳せることとなる。
第84回ではフランスの『パリ猫ディノの夜』(10)とスペインの『チコとリタ』(10)、第86回では『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(12)と、欧州圏の作家性の強いアニメーション作品を次々とアカデミー賞ノミネートへ導く。第87回には再びカートゥーン・サルーンの『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(14)と、スタジオジブリ制作の高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』(13)がノミネート。
さらに第88回ではブラジルの『父を探して』(13)とスタジオジブリの『思い出のマーニー』(14)、第89回ではスイスのストップモーションアニメ『ぼくの名前はズッキーニ』(16)がノミネートされ、第90回の『ブレッドウィナー』(17)、第91回の細田守監督作品『未来のミライ』(18)まで、6年連続で同賞にノミネートを果たす快挙を達成。
そして第93回の『ウルフウォーカー』(20)を経て、昨年の第96回、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(23)でついに同賞初受賞。また同作は、北米2205館の大規模で公開され、北米興収4683万ドルを超えるヒットも記録することとなった。
日本の話題作や名作アニメを次々と北米公開!
スタジオジブリ作品や細田守監督作品を中心に、日本のアニメ作品と特にゆかりの深いGKIDS。同社が最初に北米配給を務めた日本のアニメ作品は2010年12月に北米公開を迎えた『サマーウォーズ』(09)であり、2011年にはそれまでウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが保有していたスタジオジブリ作品の北米配給権を買い取り、以後「Studio Ghibli Fest」と題した特集上映を毎年のように行なっている。
それ以外にも原恵一監督の『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』(15)や、湯浅政明監督の『夜は短し歩けよ乙女』(17)、『夜明け告げるルーのうた』(17)、『きみと、波にのれたら』(19)、新海誠監督の『天気の子』(19)など、海外でも高く評価される日本のアニメーション作家の作品を次々と北米に紹介。日本アニメの国際的評価が一段と高まってきた近年では過去の名作にも積極的に力を入れ、『東京ゴッドファーザーズ』(03)を最新の英語吹替で再上映したり、『秒速5センチメートル』(07)のパッケージを再リリース。
ほかにも『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(20)や『THE FIRST SLAM DUNK』(22)、『BLUE GIANT』(23)の北米配給も担当。現在は日本で興収20億円を超えるスマッシュヒットを記録している『ルックバック』(公開中)がGKIDS配給のもとで北米公開されており、11月には山下敦弘監督の『化け猫あんずちゃん』(24)も待機。日本のアニメを北米に広めるスペシャリストとして多くのアニメファン、映画ファンから信頼を寄せられている。
今回締結されたToho InternationalとGKIDSのパートナーシップは、これまで以上に日本のアニメーション作品が拡大する大きな転換点となることだろう。Toho Internationalは近年、海外での事業の増強を図っており、『ゴジラ-1.0』(23)の北米配給を自社で務めて興行的成功を収めたばかり。興行と賞レースの両面で、日本のアニメ作品がさらなる躍進を遂げることに期待しながら、今後の動向に注目していきたい。