尾道・大林宣彦を訪ねる旅――『転校生』から『海辺の映画館』へ、“映画のまち”と大林映画の40年
大林宣彦の“頭のなか”を映画にする
監督から『海辺の映画館-キネマの玉手箱』の構想を聞いた時のことを尋ねると、大谷さんはこう振り返った。
「『尾道版、大林版の「ニュー・シネマ・パラダイス」をこしらえたいんだ』と監督がおっしゃって。映画のなかには、尾道にゆかりの深い小津安二郎監督や新藤兼人監督の話が具体的に出てきますが、監督には自分は映画で育ったのだという自信があって、この映画を通して、自分の視界に入った“戦争”についてまとめあげようとしていた。やはり軸は、尾道での原体験を離れないんだなと感じたんです」。
海辺の映画館の閉館オールナイトに訪れた3人の若者の一夜の冒険譚と、入れ子構造で展開される複数の劇中映画の世界、そして大林監督の記憶が交差していくという複雑な構成を持った『海辺の映画館』は、いわば大林監督の頭のなかを覗き見る物語だ。かつてなく困難な制作になることは明白だった。
「今回の映画は特に、撮って編集してみないとわからない作品だ、というのは理解していましたから、我々にとってはどこまで想像力を働かせて具体的な提案ができるのかが一番の仕事でした」。
病身を押して尾道入りした監督との会話のなかで、大谷さんらは次第に作品イメージを掴んでいった。
「準備のためには、ロケで済ます部分とセットを建てる部分に整合性を持たせなければなりませんから、いろいろ無駄話をしている間に『監督、こうですかね?』『そうだよ』とキャッチボールを繰り返しました」。
こうして撮影準備は着々と進行していき、2018年の夏、実に20年ぶりに尾道での撮影がスタートした。
「撮影は、とにかく暑かったですね。あの期間、僕たちが日本一『ガリガリ君』を食べていたんじゃないかな(笑)。監督の体調の問題もあったので屋内でのグリーンバック撮影も多かったですが、いざ撮影となると、例えそこが歩くしか手段のない険しい山道であっても、自力で上がっていく。その気迫に改めて驚かされましたね」。
末期がんで余命宣告を受けながらも、先頭に立って撮影を進めていく大林監督の姿は、尾道に住む人々の心にも強い印象を残した。
「今回の撮影を手伝ってくれたボランティアの方々は、延べ1000人を超えるほどでした。40年にわたる積み重ねのおかげか、大林監督の創作現場を見てみたい、手伝ってみたいという純粋な動機で来てくれた方々が一番多かったんです。本当にありがたいことでした」。
クランクアップ後、背景の撮影や編集を経て完成した『海辺の映画館-キネマの玉手箱』は、名実ともに大林映画の集大成と呼べる、179分を駆け抜ける走馬灯のような映画になった。
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