独自の世界観に陶酔する…『女子高生に殺されたい』古屋兎丸が描く少年少女の物語
独特な世界観で人気を集める漫画家、古屋兎丸とは?
古屋は、多摩美術大学美術学部絵画科卒業後の1994年に、「月刊漫画ガロ」に掲載された「Palepoli(パレポリ)」でデビュー。最初は高校の美術講師をしながら漫画家活動をしていたが、2003年の初の週刊連載「π(パイ)」開始と前後してフリーの漫画家に。人間の暗部や性的思考を、常人が思いつかない驚くべき発想力と圧倒的な画力で描きだした作品で多くのファンを魅了し、代表作の「ライチ☆光クラブ」と「帝一の國」は2016年と2017年に相次いで映画化されている。
代表作をいくつか紹介していこう。まず「ライチ☆光クラブ」は、東京グランギニョルの同名演劇が原作で、古屋が自ら出版社に売り込んで連載がスタートした代表作。少年たちを主人公にした最初の作品でもあり、その美しくも残酷な物語に魅了された同業者やクリエイターも多い。また、メガネくん、正統派、オカマキャラなど個性的なキャラクターがたくさん登場するのも人気のポイントで、コスプレ女子を多数輩出。 映画版では野村周平、古川雄輝、間宮祥太朗、藤原季節、岡山天音らの共演も話題になった。
同じく映画化され、菅田将暉が主演を務めた「帝一の國」は、全国屈指の頭脳をもつエリートたちが、生徒会長の座を目指して熾烈なバトルを繰り広げるアツい青春物語。もちろん本作でも、古屋が美しくもクールな少年たちを創造。各々のやり方で頂点を目指す、彼らのたたずまいや繊細な表情に夢中になった読者も多いはずだ。
そして、年齢=彼氏いない歴の人形作家、宮方天音が主人公の「アマネ†ギムナジウム」。画材屋から譲り受けた古い粘土でドイツの全寮制「ギムナジウム」をテーマにした7体の少年の人形を作り上げた天音。だが、その粘土には秘密があり、彼女がキスをすると次々に動きだす…という、心躍るファンタジーだ。天音が美少年人形と戯れる倒錯世界は「不思議の国のアリス」を想起させる。美男子の人形たちが魅力的なのはもちろんのこと、天音の想像力を反映させた彼らの苦悩に、天音自身の繊細に揺れ動く深層心理が見え隠れする多重構造になっているのもおもしろい。
3世紀のヨーロッパで実際にあった“少年十字軍運動”を題材にした「インノサン少年十字軍」は、聖地エルサレムを目指す13人の少年たちの悲劇的な運命を描いた大作。「ライチ☆光クラブ」同様、それぞれに異なるアイデンティティを持った少年たちが魅力的。旅を通して渦巻く愛憎と裏切り、残酷な運命が古屋の鋭利な筆致で活写されていて刺激的だ。
ほかにも“完璧なおっぱい”を探し求める美少年を描き、古屋の転機となった先述の「π」や、空中ブランコ乗りたちが華麗なフライヤー対決で鎬を削る絶賛連載中の「ルナティックサーカス」と、“性”やドロドロの愛憎劇を軸とした多くの作品を世に送り出している。
コミックのほかにも、昨年公開された菅田将暉主演の『キャラクター』(21)では、古屋が主人公の漫画家、山城圭吾(菅田)の師匠で、人気ホラー漫画家でもある本庄勇人(宮崎吐夢)が描く劇中のサスペンス漫画「オカルトハウザー」を描いたことも大きなトピックに。映画の恐怖を増幅させていたのも忘れられない。