原恵一と辻村深月が語り合う、藤子・F・不二雄から学んだ“ファンタジーと日常”「ものづくりはバトンリレー」
「大人と子供の時間は、実はつながっているもの」(辻村)、「ものづくりはバトンリレー」(原)
――こうしてお話を聞いていても今回すばらしいタッグになったことがわかりますが、辻村さんがいま改めて、原監督に本作の劇場アニメ化をお願いできてよかったと思われるのは、どのようなことでしょうか。
辻村「原監督の作品に共通しているのは、『子どもに語るには難しいかもしれない』と感じるようなことでも恐れずに、『大人側が信念を持って作れば、絶対に届くはずだ』という姿勢で作品に向き合っていくことだと思うんです。それは作り手としてもとても尊敬できるところですし、そういった方に『かがみの孤城』をお願いできて本当によかったと思っています。
以前『かがみの孤城』を読んだ中学生の方から、『なぜこんなに僕たちの気持ちがわかるんですか?』と聞かれたことがあって。『あなたからは大人に見えているかもしれないけれど、私も昔は中学生だったんだよ』という気持ちになりました。そうやって大人と子どもの時間って、実はつながっているもの。大人は子どもだった時のことを忘れてしまいがちですが、私自身、原監督が作った『エスパー魔美』を観て感動したころの自分を忘れずにいたい。子どもを見くびらずに創作をしてくれた方々から受け取ったものを、ずっと大切にしていきたいです」
原「文学も漫画もアニメも、ものづくりのすべてはバトンリレーなのかなという気がしています。いま辻村さんがおっしゃってくださったことは、僕自身もF先生から受け取ったものですから。F先生の漫画は、いまでは大人が読んでも恥ずかしくないものとして認められていますが、昔は『子ども向けのもの』と言われ続けていたんです。僕はずっと『F先生の作品は大人が読んでも楽しいんだ!』と思っていました。F先生の生前に、いまのような受け取られ方をしてほしかったなと感じています」
――本作に対する反響もとても楽しみですね。
原「とても強い映画ができたと思っています。観たらきっと力をもらえる作品になっていると思いますので、ぜひ楽しんでほしいです」
辻村「主人公のこころたちと、1年間を過ごした気持ちになれる映画です。8番目の招待客になったつもりで観ていただけたらとてもうれしいです。登場人物たちのその後のワンシーンを描いたポストカードが入場者特典になっているんですが、それは私と原監督で話し合って作ったものなんです。原作を読んだ方ならば、そこからもきっと受け取れるものがあるはず。どうか皆さんに楽しんでいただけたら!」
取材・文/成田おり枝