91歳の巨匠・山田洋次監督を支え続ける“番頭”が明かした、『こんにちは、母さん』の舞台裏
「男はつらいよ」シリーズをはじめ、数々の国民的作品を世に送りだしてきた山田洋次監督と、国民的女優である吉永小百合、そして大泉洋がタッグを組んだ『こんにちは、母さん』が公開中だ。9月13日(水)に92歳の誕生日を迎える山田監督は、90本目の監督映画となる本作にどのような想いを持って臨んだのか。企画のスタートや、下町情緒あふれる墨田区向島でのロケーション撮影の裏話など、 山田組の現場を支え続ける2名の“番頭”、松竹株式会社の房俊介プロデューサーと、製作部の牧野内知行にたっぷりと話を聞いた。
神崎昭夫(大泉)は大会社の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題や大学生になった娘の舞(永野芽郁)との関係に頭を悩ませていた。ある時彼は、久しぶりに母の福江(吉永)がひとりで暮らす下町の実家へ。しかしそこで昭夫を待っていたのは、艶やかなファッションに身を包み、恋愛もしていきいきと生活している見たこともないような母の姿だった。自分の居場所がないことに戸惑いを抱く昭夫だったが、次第に見失っていたことに気付かされていくことになる。
「吉永さんの素の魅力を引きだす息子役として、大泉さんが浮かびました」(房)
本作の原作は、2001年に新国立劇場で初演され、2004年には再演、2007年にはNHKでテレビドラマ化もされた永井愛の同名戯曲。山田監督は初演当時から映画化に向けて作業に取り組んでいたものの、当時は実現まで至らなかった。
「2021年ぐらいのことでした。山田監督と吉永さんがお話をしていた際に、監督が原作戯曲のことを思い出し、現代に置き換えたら吉永さんを母親役にして成り立つのではないかと考えたそうです」と、房プロデューサーは企画の再スタートの経緯を振り返る。吉永にとってはこれが123本目の映画出演作。山田監督とは『男はつらいよ 柴又慕情』(72)でタッグを組んでから半世紀が経ち、近年も『母べえ』(08)や『おとうと』(10)、『母と暮せば』(15)で主演を務めている。
「監督からお話を伺い、松竹側からは『それならば息子役に大泉洋さんはどうですか?』と提案させていただきました。以前から監督とご一緒して、吉永さんとお食事に行かせていただく機会が何度かあったのですが、その時に吉永さんはマネージャーさんと楽しくおしゃべりをしていたり、映画では観られないようなユーモラスで可愛いらしいお姿をお見かけして。それを映画のなかでも引きだしてみたい、ならば誰が適任かと考えた時に、大泉さんが浮かんだのです」。
山田監督はデビュー作の『二階の他人』(61)から60年以上、一貫して松竹で映画を撮り続け、前作の『キネマの神様』(21)は松竹映画の100周年記念作品として制作された。「山田監督はいつも若い人とお話をしたり本を読んで企画を思いつくと、これを映画化できるだろうと提案してくださいます。松竹では監督のやりたいことを最優先に、それを一番いい方法で実現できるように準備を進めていくスタンスをいまでも続けています」と、房プロデューサーは山田監督と松竹が長年培ってきた信頼関係が、いまも守り続けられていることを明かした。