ヒトラー南米逃亡説、戦時下に計画されたナチス絡みの陰謀…映画で描かれたナチスドイツの“if/もしも”
ナチスによって企てられた「ナポレオン計画」の恐るべき全貌
『オペレーション・ナポレオン ナチスの陰謀』は、2023年にアイスランドで公開されたばかりの日本初上陸作品。『湿地』(06)が映画化されているアイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの小説を基に、氷河地帯で雪に埋もれた状態のまま発見された第二次世界大戦時代の飛行機の残骸を巡って、国際的な陰謀に巻き込まれてゆく女性の姿が描かれてゆくサスペンスだ。日本語吹替版では、水樹奈々、福田賢二などの人気声優が主要キャストの声を担当。また、「ゲーム・オブ・スローンズ」(11~19)のジョラー・モーモント役で知られるイアン・グレンの吹替えを大塚明夫が担当している。戦時下でナチスによって企てられ、実現することのなかった「ナポレオン計画」の存在。その陰謀が現代の女性に危機を及ぼす展開は、戦後もナチスの影が社会に残り続けるという由縁にもなっている。
2015年前後にナチスを題材した映画が日本で公開された際、「食傷気味」との心ない意見も散見されたことがある。だが、各々の作品は一つとして同じことを描いているわけではないのである。1950年代末のドイツを舞台にした『顔のないヒトラーたち』(14)も、2015年に日本で公開された作品の一つ。劇中では、第二次世界大戦の記憶が当時のドイツで既に薄らぎつつあることに対する懸念を指摘していた点が印象的だった。さらに、1958年までアウシュヴィッツの存在がドイツ国民に知らされていなかったため、ナチスの残党が教員として平然と学校教育に関わっていたという衝撃の事実も描かれ、映画を鑑賞することが私たちにとって知られざる歴史を広く知らしめる機会にもなっていた。
ナチス幹部の子どもたちの“その後”に迫った『さよなら、アドルフ』
同じく特集で放送されるケイト・ショートランド監督作『さよなら、アドルフ』(12)も、それまで映画で描かれてこなかったナチス幹部たちの子どもたちの“その後”を描いた作品という点が重要だ。終戦後、ナチスがユダヤ人に対して行った残虐行為について初めて知ることになった14歳の少女。彼女はユダヤ人青年との出会いによって、それまで信じてきた価値観やアイデンティティが揺らいでゆくのである。本作では、世間の冷たい視線を浴びるナチス幹部の子どもたちに対して、ユダヤ人青年が救いの手を差し伸べるくだりにある。『お隣さんはヒトラー?』でも、“絶対悪”とされるナチスを指揮したヒトラーと、ホロコーストの被害者である老人ポルスキーとの間に起きたあり得ない選択に対して、説得力を伴いながらコミカルに描いてみせている。犠牲者の数だけドラマがある。だからこそ、「知らないかもしれない事実に目を向けてみよう」という姿勢で、戦後も残り続けるナチスの影を描く映画とわたしたちは向き合い続けたい。
文/松崎健夫
■BS10 スターチャンネル 放送情報
『オペレーション・ナポレオン ナチスの陰謀』
[字幕版] 7月27日(土) 13:00~、8月19日(月) 20:50~
[吹替版] 7月19日(金) 18:45~、8月26日(月) 16:30~
『さよなら、アドルフ』
[字幕版] 7月27日(土) 15:10~
『ヒトラーの忘れもの』
[字幕版] 7月27日(土) 17:10~
■Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」配信情報
『オペレーション・ナポレオン ナチスの陰謀』独占配信中