『ブックセラーズ』から『花束みたいな恋をした』まで…本と本棚が紡ぐ映画の世界観

コラム

『ブックセラーズ』から『花束みたいな恋をした』まで…本と本棚が紡ぐ映画の世界観

本屋さんや図書館、誰かの本棚に並ぶ、たくさんの本の中から、好きな1冊を手にとって読みふける楽しさ。ネットで電子書籍を買う時代になっても、本は変わらず、私たちの胸をときめかせてくれる特別なアイテムだ。ただ、そこにあるだけで興味をかきたてられ、深い意味を秘めた本たちは、古今東西の映画の中にもよく登場する。今回は、世界各地の素敵な書店や図書館、印象的な本棚が登場する、おすすめのブック・ムービーを紹介したい。

大型本を偏愛するデイヴなど個性豊かなブックセラーたちが登場する『ブックセラーズ』
大型本を偏愛するデイヴなど個性豊かなブックセラーたちが登場する『ブックセラーズ』[c]Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved

まず、現在公開中の『ブックセラーズ』は、本好き、本屋さん好きな人のハートに刺さるドキュメンタリー映画。チェーンの大型書店とは方向性が異なる、NYのポリシーを持った個人経営の書店、特に希少本を扱うブックセラーたちへの興味深いインタビューを通して見えてくる、本をめぐる世界の裏側とは――。各分野のスペシャリストや作家、有名コレクターなど、本をこよなく愛するユニークな人物たちが、本の世界に入ったきっかけから、本の底知れぬ魅力、収集の醍醐味、ネット社会に対する不安までを率直に語り尽くす。「人と本との関係は恋愛によく似ている」、「図書館は永遠、宇宙だ」など、思わずメモりたくなるような言葉も満載。本編の中で、ジョニー・デップが稀覯本の探索と売買をおこなう“本の探偵”を演じた『ナインスゲート』(99)や、ヒロインの不倫相手が古書専門のブックセラーだった『運命の女』(02)など、本が登場する映画のタイトルがたくさん引用されるシーンもあり、映画ファンをニヤリとさせてくれる。

コネチカットにある個人図書館、ウォーカー人類想像史図書館への取材も(『ブックセラーズ』)
コネチカットにある個人図書館、ウォーカー人類想像史図書館への取材も(『ブックセラーズ』)[c]Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved

NYマンハッタンのアッパーウエストサイドを舞台に、母親から受け継いだ児童書専門の小さな本屋を営む女性と、彼女の店の存続をおびやかす大型書店の御曹司との恋を描いたのが『ユー・ガット・メール』(98)。メグ・ライアン演じるヒロイン、キャスリーンの本屋の店内は温かみのあるレンガの壁面で、棚には本の他にもキュートなぬいぐるみが並び、レジには花が飾られるなど、店主のセンスが反映された空間。一方、トム・ハンクス演じる御曹司ジョーの大型書店は、15万冊の本を常備しているだけでなく、広い読書スペースがあり、本を愛する人々の憩いの場。タイプは違うけれど、どちらの店も魅力的だという描き方が優しかった。互いに素性を知らせず、ハンドルネームでメール交換をしていた二人が初めて会う約束をしたとき、キャスリーンが目印として持っていたのはジェーン・オースティンの本。恋や結婚をユーモラスに描くことを得意としていた作家の本を選ぶところに、恋に憧れる彼女のロマンティックな性格がよく表れている。

『ユー・ガット・メール』はDVD&Blu-rayが発売中!
『ユー・ガット・メール』はDVD&Blu-rayが発売中!

映画では、どちらかというと代々受け継がれてきた本屋が登場するケースが多い中、『マイ・ブックショップ』(18)は、主人公がイチから本屋を開業する過程そのものが物語になっている作品だ。舞台は1959年、イギリスの海辺の小さな町。書店が一軒もない保守的な土地で、夫を戦争で亡くした未亡人が、周囲の反発に負けず、夫との夢だった本屋を営んでいく。未亡人の名前はフローレンス・グリーンで、ふだん着ている服もグリーン系が多く、本屋の窓枠や、“THE OLD HOUSE BOOKSHOP”という看板の色もクラシカルなアイリッシュ・グリーン。店内の書棚に50年代の書物の色とりどりの背表紙が並ぶ様子が美しい。監督のイザベル・コイシェは、書棚にどのような本を並べるかにこだわり、なるべく本物の初版本を揃えるため、製作費の多くを費やしたという。


フローレンスの最大の味方となる老紳士ブランディッシュも大の読書好きで、彼の屋敷には書棚におさまりきらない本が部屋のあちこちに平積みにされていた。また、劇中でとりわけ重要な作品として登場するのが、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」とウラジーミル・ナバコフの「ロリータ」だ。「華氏451度」は本の所持や読書が禁じられた社会を描くSF小説だが、映画を最後まで見ると、この本に隠された意味が分かる仕掛けになっている。

ロンドン西部のお洒落な高級住宅街、ノッティングヒルを一躍有名にしたのが、ノッティングヒルのマーケット通り、ポートベローロードで旅行書専門の本屋を営む平凡なイギリス人男性と、たまたま店にやってきたハリウッドの大女優との身分違いの恋を描いた『ノッティングヒルの恋人』(99)。ヒュー・グラント演じる主人公ウィリアムと、ジュリア・ロバーツ演じるアナが運命の出会いを果たした本屋 “THE TRAVEL BOOK COMPANY”は、いかにもスターがお忍びで訪れそうな、小ぢんまりとした落ち着いた雰囲気だ。ウィリアムの店のモデルとなった本屋も歩いてすぐの場所にあり、現在は一般書の書店に変わったものの“THE NOTTING HILL BOOKSHOP”として営業中。映画に登場する青い看板を一目見ようと、世界中から訪れるファンも多い。

旅行書専門の書店が舞台となる『ノッティングヒルの恋人』
旅行書専門の書店が舞台となる『ノッティングヒルの恋人』[c] 1999 Universal Studios. All Rights Reserved.
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