韓国映画界のレジェンド、ホン・ギョンピョ。『流浪の月』で目指したのは「“雲や風”での表現」
「目指したのは、これまでの李監督作から脱皮し私の過去作とも異なる映像」
李相日監督が提案したのは絵コンテなしで撮影するスタイルだった。あらかじめ決めたカットを絵に描いて共有して撮るのではなく、現場で画作りをする。監督、撮影スタッフら、制作者の感性や瞬時の判断が大きく問われる手法だ。
「最初はすごくプレッシャーを感じましたね。準備期間がかなり短いうえに、撮影現場でどんな映像にするかすべて決めなければならない。でも、新しいことにトライするのが好きなので、果敢にチャレンジしました。目指したのは、これまでの李相日監督の作品から脱皮し、私の過去作とも異なる映像。リハーサルをする間にシーンについて入念に観察し、どのカメラを使って何カットで表現するか、リズムやカメラの動きなどについて李相日監督と緻密に話し合いながら作り上げていきました」。
「湖は、李監督の発想で生まれたこだわりのロケ地」
「このカットの次にはこんなカットが来るだろうという予想を裏切る、音楽でいえばジャズのような撮影手法」とホン・ギョンピョが語るように、『流浪の月』はまさに固定概念を破るカットの連続で紡がれる。そんななか、ホン・ギョンピョが「一番記憶に残っている」と明かすのは、物語の大きなカギを握る湖でのシーンだ。
「湖は小説には登場せず、『水辺を活かしたい』という李相日監督の発想で生まれたこだわりのロケ地です。撮影期間はわずか3日。限られた時間のなか、不安定だった天気を逆手に取って太陽や風、雨など自然の恵みを活かした映像を撮ることができ、とてもうれしかったです」。
日本と韓国のスタッフが時にぶつかり合いながらも力を合わせた制作現場。日によっては長時間に及ぶこともあった撮影の日々をこう振り返る。
「韓国も10年ぐらい前は徹夜で撮影をしていたので、覚悟して臨みました。体調を万全にしてこそいいシーンを撮影できるという信念があるので、ちょっとつらかったですね。でも、日本のスタッフがきつい状況にもかかわらず一生懸命やっていたので、私も息を合わせて乗り越えました」。