批評家が選ぶ、クリント・イーストウッドの監督代表作ランキング!“生きる伝説”の半世紀以上のキャリアをたどる“フレッシュ”10選
“集大成”といわれる最新作『陪審員2番』も高評価を獲得
40本ある監督作品のうち9作品が90%以上という安定感もさることながら、惜しくも上位10作品にあと一歩届かなかったデビュー作の『恐怖のメロディ』と『ハドソン川の奇跡』(16)を含めれば1970年代から2020年代まで6つの年代の監督作品が上位12本以内に入るというのも驚異的。そのなかで最も高い評価を獲得したのは、やはりイーストウッドの監督としての評価を確たるものとした『許されざる者』だ。
同作はイーストウッドが師であるドン・シーゲルとセルジオ・レオーネに捧げるかたちで作り上げた渾身の西部劇。かつては西部で名を馳せた悪党だったウィリアム・マニー(イーストウッド)は、改心して静かに貧しい暮らしを送っていた。そんななか賞金稼ぎの話を持ちかけられ、かつての仲間だったネッド(モーガン・フリーマン)と共にその話に乗ったマニーだったが、彼らの前に保安官のリトル・ビル(ジーン・ハックマン)が立ちはだかる。
96%フレッシュという高いスコアが示しているように、批評家から大絶賛を獲得した本作は興行的にも成功。また、第65回アカデミー賞では9部門にノミネートされ、作品賞と監督賞など4部門に輝き、それまでアクション映画を監督する西部劇スターという立ち位置であったイーストウッドへの評価が一変。重厚かつ濃密なドラマを手掛ける実力派監督の一人としてその名を轟かせることに。
とはいえこの『許されざる者』に次ぐ94%フレッシュの高評価となったのが、監督第2作として手掛け自ら主演も務めた王道の西部劇『荒野のストレンジャー』。さらに、映画ファンからも人気の高い『ペイルライダー』が93%フレッシュ、『アウトロー』も90%フレッシュで上位にランクイン。イーストウッドの代名詞である西部劇は、特に批評家からの人気が高いようだ。
それでも戦争映画『硫黄島からの手紙』が91%フレッシュ、文芸ラブストーリーの『マディソン郡の橋』が90%フレッシュ、ミステリー要素が前面に押し出された『ミスティック・リバー』が89%フレッシュで入っているように、先述の年代別だけでなくジャンル別でも満遍なく高評価作品を生みだしているのはさすがである。そして、そんなイーストウッドの“集大成”ともいわれている『陪審員2番』は、93%フレッシュと近年の作品では頭ひとつ抜けた高評価に。
とある殺人事件の裁判で陪審員を務めることになった男ジャスティン(ニコラス・ホルト)が、思わぬかたちで事件と自分との関係に気付き、深刻なジレンマに悩む姿を描く法廷ミステリーである同作。緻密に練り込まれた人物描写と、イーストウッドらしい淡々としながらも的確な語り口で、司法制度の課題や“正義とはなにか?”という大きな問いを投げかける。年齢的なこともあって“最後になるかもしれない作品”といわれているが、才気の衰えは一切感じられない完成度の高さを誇っている。
この『陪審員2番』は当初からストリーミング配信での公開が予定されていたが、北米では限定的な規模での劇場公開が実現。それでもスタジオ側の判断は大きな論争を呼ぶこととなり、特にイーストウッド作品の人気が高い日本では劇場公開を求める映画ファンが署名運動を起こしたほど。今後同作が劇場で上映されることに期待しつつ、まだまだイーストウッドには映画を撮りつづけて(かつ自ら主演を張って)ほしいと願うばかりだ。
文/久保田 和馬