今知っておきたい!アメリカ映画は黒人と差別の問題をどう描いてきたか
時代ごとの人権意識が表れた法廷ドラマ群
人種差別は時として法廷に持ち込まれ、法の下の平等という原則を危うくする。『アラバマ物語』(62)は1930年代の米国南部で、白人女性を暴行したとされた黒人容疑者を担当した弁護士の奔走を描いた。
差別の根強い南部、陪審員が全て白人という状況で公正な裁きは望むべくもなかったのか。それから
50年、状況がさほど変わってないのは、無実の殺人罪を着せられた死刑囚の実話に基づく『黒い司法 0%からの奇跡』(19)を見ても明らかだ。他にも『評決のとき』(96)など、法と人種差別を扱った映画は力作揃い。『グローリー〜』のエヴァ・デュヴァネイ監督はNetflixのドキュメンタリー『13th-憲法修正第13条-』(16)で、黒人が逮捕されやすい現実に鋭く切り込んでいる。
現在もアメリカに残る差別意識と人種の壁
ブラック・ライブズ・マター運動がこんなにも広がったのは、人種差別が現在進行中の問題であるから。今なお人種差別を題材にした映画がつくられ続けていることも、その表れだろう。ブラック・ライブズ・マターが再燃する発端となった、白人警官による黒人への過剰暴力と似た事件は以前から全米各地で起きており、『フルートベール駅で』(13)は、2009年に起きた同様の事件を映画化したもの。
一方、『ブラインドスポッティング』(18)や『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(19)では地価の高騰や経済格差の問題も見据える。また、『ビール・ストリートの恋人たち』(18)では無実の罪で投獄された男とその恋人を追い詰める苦境が、歪んだ社会システムを浮き彫りにする。
エンターテインメント寄りの作品にも、この傾向は顕著だ。スリラー『ゲット・アウト』(17)では郊外の白人社会に紛れ込んだ黒人青年の受難を通して、人間の差別意識が鋭く描き出された。『ブラック・クランズマン』(18)では黒人と白人の刑事コンビが2人1役でおとり捜査に挑む姿を追いつつ、分断社会を見つめる。
そしてオスカー作品賞受賞作『グリーンブック』(18)では、差別が激しかった1960年代南部の風潮の中で、黒人ミュージシャンとの交流により、差別意識を取り除いていく白人男性の姿が描かれた。
人種差別の根本は個人の意識の問題であり、どんな人の心にもヘイトが住み着く可能性がある。ひとりひとりが、それをどう乗り越えるか? これらの作品は、そんなことを考えさせずにおかない。
文/相馬学